「ホーム」へ戻る

ホーム心のビタミン

思いがけない言葉

 月に1回ずつ習い始めて、十数年になる料理教室がある。
使う材料は、全て一級品。葛粉であれば、吉野葛。惜しげも無く使って、とろみをつける。しかも、使った調理道具は、生徒である以上、一切洗ってはいけない。洗う作業をするより、説明を聞いてくださいという方針。
 後片付けや、調理道具は誰が洗うのか?それらは、先生とたまに来るお手伝いの方。生徒が、材料の計量をしたり、泡立てたりしている最中に、タイミングを見て、洗う作業を静かに行ってみえる。

 その料理教室に行き始めて、しばらく経った頃、気になることがあった。
事前に予約を入れて、教室に参加するので、メンバーはいつも同じとは限らない。料理の手順の説明が始まったにも関わらず、お喋りばかりしている数人がいる。先生の説明が聞こえにくいと思えるほど、声が大きくなっている場合もあった。
 作業が始まり、個々にやることを決めて、動き出したところで、何気なく先生に聞いてみた。
「先生は、お喋りが気になりませんか?」
すると、先生は、
「久しぶりに友達と会って、積もる話に夢中な訳だから、良いんじゃない?喫茶店で、待ち合わせてもいいのに、わざわざこの料理教室に予約を入れて下さったんだから、感謝しかないわ!」
そしてまた、
「わざわざお金を払って、料理教室に来て、叱られて帰ったら、もう参加したくないって思うでしょう。楽しかった!また、行きたいって思ってほしい。」
(私は、どんな答えを期待していたのだろうか。うん、気になるわね。とか、困ったもんだわね。とか。)

 思いがけない先生の返答に驚き、人への接し方が根本から変わるきっかけとなった。「静かにして下さい。」というのは簡単。その場を寛容に受け止めることで、教室全体の居心地も良くなり、個人差を受け止める雰囲気も出てくる。
 計量を得意とする人、泡立てが上手な人、熱い焼きたてのパンを平気でお皿に移す人。10人も集まれば、見ているだけの人もいる。その中に、お喋りを楽しむ人もあり。そう考えれば、どうってことはない。先生の言われるとおりである。
ウィークデイは仕事に追われ、貴重な休日。お金を払って料理教室に参加したのに、楽しい友とのお喋りで、叱られたら、つまらないし、嫌になる。
 その後も、お喋りに夢中になっている人に、
「○○さん、そこの卵取ってもらえる?」とか言って、上手に話がストップするように仕向けてみえた。さすがプロ!頼まれれば、お喋りが途切れる。上手に、生徒さんたちはコントロールされ、手土産いっぱいで、楽しい料理教室から自宅にと帰る。(C・S)